舗装したばかりの黒い道路を、白線を引く機械がゆっくり進んでいきます。長い定規も、機械を導くレールも見当たりません。それなのに、後ろに現れる白線はほとんどふらつかず、遠くまでまっすぐ続いています。
作業する人が、何もない道路に一発で直線を描いているわけではありません。白い材料を載せる前に、路面へ細い下書きを付け、その線を目印に機械を進めています。完成した白線の下には、先に引かれた「もう一本の線」が隠れているのです。
白線は、塗る前に位置が決まっている
道路の白線は、空いている場所へ見栄えよく引けばよいものではありません。車線の中央や道路の端など、役割に合わせて設置する位置が決まっています。そこで工事では、設計図と現場を照らし合わせ、線の始まりと終わり、長さ、幅を確かめます。
その位置を実際の路面へ写す準備が「作図」です。国土交通省の工事仕様でも、区画線を施工する前に路面へ作図し、施工する場所、長さ、幅などが合っているか確認することが定められています。
ここで確かめるのは、線が見た目にきれいかどうかだけではありません。道路の端からどれだけ離すか、隣の線とどの間隔で並べるかがずれれば、車が通る空間の広さまで変わってしまいます。白線のまっすぐさは、塗る人の腕より前に、どこへ引くかを測るところから始まっています。
始点と終点が決まっても、まだ細い点が置かれただけです。数十メートル離れた二点の間を、短い定規で少しずつつないだら、継ぎ目でずれてしまいそうです。ここで、道路と同じ長さの定規ではなく、一本のひもが登場します。
張ったひもを「パチン」とはじく
使うのは、チョークなどの粉をまとわせた細いひもです。線を引きたい場所の両端でひもを押さえ、途中がたるまないようにピンと張ります。このとき、ひもは二点の間を最短距離で結び、まっすぐな基準になります。
次に、張ったひもの中央付近を指で少し持ち上げます。手を離すと、ひもが「パチン」とアスファルトをたたき、付着していた粉が路面へ移ります。ひもをどけたあとに残るのは、端から端まで続く細い直線です。

この道具は「チョークライン」と呼ばれます。長い定規を置かなくても、ひもを張ってはじくだけで、一度に直線を写せるのが強みです。完成する白線よりずっと細く、近くで見なければ気づかないほどの線ですが、施工機の進む方向を示すには十分です。
舗装工事のあと、まだ白線が引かれていない路面を見る機会があれば、青白い細線や短い印が残っていることがあります。それは消し忘れではなく、これから太い白線へ変わる下書きかもしれません。
施工機は、細い下書きを追って進む
下書きができたら、手押し式の施工機やラインマーカー車をその線に沿わせて進めます。作業する人は、後ろにできた白線だけを見ているのではありません。機械の前方にある目印やガイドを下書きに合わせ、少し先を見ながら向きを直します。
機械のすぐ足元だけを見ていると、ずれに気づいたときには白線がすでに曲がっています。少し先まで続く下書きを見れば、進む向きが早めに分かり、小さな修正で元の線へ戻せます。細い粉の線は、機械が進むための見えないレールのような役目をしているのです。

線の幅は、材料が出る口や路面に接する部分によってそろいます。筆を左右へ動かして太さを調節しているのではなく、決まった幅で材料を出す機械を、下書きから外れないように運んでいるのです。小さなずれを早めに直すため、長い距離でも不自然な折れ曲がりが残りにくくなります。
太い白線が完成すると、粉で付けた細い線はその下に隠れ、やがて見えなくなります。道路に残るのは白線だけですが、そのまっすぐさは、塗る前に「パチン」と引かれた最初の一本から始まっていました。
参考資料:国土交通省「土木工事共通仕様書(案)令和8年3月 第3編 第2章 第3節 共通的工種」/国土交通省 東北地方整備局 山形河川国道事務所 寒河江国道維持出張所「寒河江国道区画線工事~道路の線や文字を書きます~」


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