傘を開くとき、手で動かすのは中心付近の部品一つだけです。それなのに、周囲へ伸びる骨はほぼ同時に持ち上がり、たたまれていた布が円い屋根へ変わります。一本ずつ骨を動かしているわけではないのに、なぜ全体がそろって開くのでしょうか。
中心を上下する「下ろくろ」にすべての受骨がつながり、その受骨が外側の親骨を押し広げるからです。傘は、一つの輪の動きを放射状に分けるリンク機構としてできています。
中心に集まる四つの部品
一般的な長傘の骨組みは、中棒、ろくろ、受骨、親骨を中心に見ると理解しやすくなります。中棒は持ち手から傘の頂点まで通る軸です。傘生地に沿って中心から外周へ伸びる長い骨が「親骨」、その親骨を内側から支える短い骨が「受骨」です。親骨と受骨の接続部は「だぼ」と呼ばれる関節になっています。
ろくろには二つあります。中棒の上端近くで親骨を束ねるのが「上ろくろ」、中棒に沿って動き、受骨を束ねるのが「下ろくろ」です。開閉時に手で押し上げる筒状の部分は下ろくろに当たります。傘の内側を見ると、一本の受骨が一本の親骨の途中へ斜めにつながり、それが周囲へ同じように繰り返されていることが分かります。
上ろくろは親骨の根元を同じ中心に集めますが、親骨を開く力を直接生み出す部品ではありません。動きの出発点になるのは、上下に滑る下ろくろです。
下ろくろの上向きの動きが、横向きの広がりに変わる
傘を閉じた状態では、下ろくろは持ち手に近い位置にあり、受骨は中棒に沿うように寝ています。そこから下ろくろを上へ押すと、受骨の内側の端も一緒に持ち上がります。しかし、受骨の反対側は親骨の途中にだぼでつながっているため、単純に上へ移動することはできません。
行き場を失った受骨は斜めに起き上がりながら、親骨との接続点を外側へ押します。親骨は上ろくろにつながる根元を中心に回転し、先端が中棒から離れていきます。下ろくろの「上」への移動が、受骨を介して親骨の「外」への回転に変換されるわけです。メーカーも、下ろくろを上下させることで受骨が動き、傘全体が開閉すると説明しています。
閉じるときは逆です。下ろくろを下げると受骨の角度が小さくなり、親骨の途中を中心側へ引き戻します。同じ部品が押す役と引く役を交互に担うので、開閉のために別々の仕掛けを用意する必要がありません。

一本の輪が、すべての骨を同時に押す
下ろくろは中棒を囲む輪の形をしており、その周囲に複数の受骨が等間隔で取り付けられています。輪が数センチ上がれば、そこにつながる受骨の内側の端もすべて同じ距離だけ上がります。この対称な配置が、一か所を押すだけで傘全体がそろって動く理由です。
現在の洋傘では8本骨が主流ですが、4本や5本のもの、多間傘と呼ばれる16本や24本のものもあります。骨の本数が変わっても、中央のろくろから受骨を放射状に伸ばす基本は共通しています。

ただし、全部の骨が完全に同じ速さで動いて見えるのは、関節の位置や骨の長さがそろい、生地が均等に縫い付けられている場合です。だぼが緩む、一本の骨が曲がる、生地が骨に絡むといったことがあれば、動きは崩れます。一本の異常が傘全体の開きに影響するのは、すべてが中央の動きへ結び付いているためです。
「カチッ」は開く力ではなく、戻り止めの音
手開き式の傘で下ろくろを最後まで押し上げると、「カチッ」と音がして手を離しても開いたままになります。これは中棒に組み込まれた「上はじき」が下ろくろを受け止め、下へ戻らないよう固定するためです。閉じた傘をまとめておく側には「下はじき」が使われます。
開いた傘では、生地や骨が元の形へ戻ろうとする力や、風を受けた力が骨組みに加わります。下ろくろを支えずにいれば、それらの力で機構が閉じる方向へ戻る可能性があります。はじきは大きく傘を広げる動力ではなく、開閉動作が終わった位置を保つ小さな留め金です。
指を挟みにくい安全ろくろでは、直接はじきへ触れずに解除できる覆いや操作部が設けられています。形は製品によって異なるため、動きを確かめようとして関節やろくろの隙間へ指を入れるのは避ける必要があります。
ジャンプ式では、ばねが下ろくろを動かす
ボタンで開くジャンプ式の傘も、骨を広げる基本の順番は変わりません。違うのは、使用者の手の代わりに、あらかじめ縮められたばねの力を利用することです。日本洋傘振興協議会の基準でも、手開き傘を手の力で開閉するもの、ジャンプ式傘をばねの力で自動的に開くものと区別しています。
ボタンを押した瞬間、留めていた機構が外れ、蓄えられていたばねの力が解放されます。その力が下ろくろ側へ伝わり、受骨を起こし、親骨を外へ回します。ボタンが周囲の骨へ個別に命令しているのではなく、一つのロックを外して中央の機構を動かしているのです。
自動開閉式の折りたたみ傘には、ボタンで閉じるところまで行うものもあります。ただし「閉じる」は骨をたたむ動作を指し、縮んだ中棒を元へ押し戻して次の開閉に備える作業は、手で行う製品が一般的です。長傘、折りたたみ傘、自動開閉式では内部のばねや連結部が異なるため、すべてを同じ構造として扱うことはできません。
細い骨には、軽さと戻る力が求められる
傘を開くたびに、親骨と受骨は曲げられ、だぼには回転する力がかかります。骨が重すぎれば持ち運びにくく、硬いだけでは風を受けたときに変形や破損が起こりやすくなります。そのため、鉄、アルミニウム、ガラス繊維強化プラスチック、炭素繊維強化プラスチックなどが、部位や製品の目的に応じて使い分けられています。受骨や中棒には、軽いアルミニウムもよく使われます。
傘の品質基準には、開閉が滑らかかを調べる操作試験だけでなく、500回開閉した後に、親骨、だぼ、受骨、中棒などの緩みや破損を調べる耐久試験があります。 普段は一瞬で終わる動作でも、力を受ける箇所は毎回ほぼ同じです。関節の小さながたつきや骨のわずかな曲がりが、繰り返すうちに開き方の偏りとなって現れます。
布は骨に載っているだけではない
骨組みが開くと、三角形に裁断して縫い合わせた傘生地も外側へ引かれます。生地は親骨へ固定されているため、骨の間で張り、ばらばらの親骨を一つの曲面としてつなぎます。骨だけを放射状に並べても雨を受ける屋根にはならず、生地が張って初めて、力が周囲へつながった一枚の面になります。
閉じた傘を急に開こうとしたとき、生地同士が貼り付いていると骨へ余分な負担がかかります。日本洋傘振興協議会が、開く前に傘を軽く振って生地をほぐす方法を案内しているのは、この負担を減らすためです。
一本の中棒を中心に、輪が動き、受骨が起き、親骨が回り、最後に布が張る。傘が一度に開いて見える短い瞬間には、中心から外周へ力を順番に渡す仕組みが折りたたまれています。
参考資料
- 東京都洋傘協同組合「傘の部品解説」
https://tokyo-umbrella.or.jp/umbrella/parts.php
親骨、受骨、上下のろくろ、だぼ、はじきなど、傘を構成する部品の名称と役割を確認するために使用した。 - アンベル株式会社「傘の開閉を司る『ろくろ』とは?種類、役割、素材を徹底解説」
https://www.amvel.net/runner/
下ろくろの移動によって受骨が動き、傘全体が開閉する仕組みを確認するために使用した。 - 日本洋傘振興協議会「教えて傘のギモン 骨編」
https://www.jupa.gr.jp/column/uq-bone/
骨の本数、使用される材料、生地をほぐしてから開く理由を確認するために使用した。 - 日本洋傘振興協議会「JUPA基準詳細」
https://www.jupa.gr.jp/mark/detail/
手開き式とジャンプ式の定義、傘の構造、開閉操作試験と耐久試験の内容を確認するために使用した。 - 独立行政法人国民生活センター「ジャンプ式折りたたみ傘の事故に注意」
https://www.kokusen.go.jp/pdf/n-20190912_2.pdf
内蔵ばねによる自動開閉の仕組みと、中棒を手で押し縮める構造を確認するために使用した。


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